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のんびり創作ブログ。
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妹の声は美しかった。
しかし、妹が歌うと家の中のあらゆるもの―皿や花瓶、電球、果ては窓のガラスに至るまで、とにかくあらゆるものが宙を舞い、割れた。
ポルターガイスト<騒々しい幽霊>というものがあるらしいが、どうやら妹の声にはそれに似た力があるようだった。
そして妹は、歌うのが好きだった。

兄が20歳、妹が6歳の時、二人はついに家を追い出された。
正確に言えば、両親はもて余していた娘を森に捨ててきたのだが、次の日の朝、息子も姿を消していた。
兄は妹を探しに行き、森の中で一人で歌っている彼女を見つけた。
周りには、小鳥が何羽も落ちて死んでいた。
妹に声をかけた兄の目の前で、また一羽、小鳥が上から落ちてきた。
彼は妹を連れ、そのまま故郷を離れた。

*******

二人は町から町へ渡り歩き、食べていくために大道芸をすることにした。
才があったのか、兄のジャグリングはそれなりの評判を得た。
ある時、二人はとある荘園の領主の屋敷で芸を披露することになった。
親族の集まる茶会での余興、だった。
兄のジャグリングで客がわいている間、妹は会場の隅で独り、手持ち無沙汰に佇んでいた。
その隣に、招待客の一人―領主の親族らしい中年の男が立った。


*******

…さっきからこの男、やたらと体を触ってくる。
気持ち悪い。
早く帰って、歌を歌いたいわ。
しばらく我慢していたけれど、足は痺れてきたし、男はますます調子に乗るし。
豚の腸詰めみたいな指をして、本当に気持ち悪いわ。
何でこんな目に遭わなきゃいけないのかしら?
腹が立つわ。
そう思った瞬間、無意識のうちに、その男の顔面を引っ掻いていた。

ああしまった念入りに尖らせてマニキュアをした爪が台無しだわ。
いやだわ気持ち悪い。

そう思って男の顔を見ると、お兄様のナイフが側頭部に突き刺さっていた。
お兄様は、すごく怒った顔をしていた。


衛兵がお兄様とあたしを引きずっていって、気が付いたら処刑台にいた。
大きな斧を持って皮袋のような仮面をした執行人が横にいて、ああ困ったわ、喉を斬られてしまったら、歌が歌えないわ。
ああでもどうかしら、喉が無事だったら大丈夫?
ああでもどうかしら、お兄様はあたしの首が胴から離れても一緒にいてくれるかしら?
歌が歌えなくなっても一緒にいてくれるかしら?
きっとそうよね、だって父様と母様があたしを捨てても一緒にいてくれたお兄様だものお兄様はいつも一緒だわあたしが何をしても笑って許してくれるしこれからもきっとずっと一緒よねそうよねお兄様ずっと「どん、」一緒よねねえお兄様聞いてるのねえお兄様何で返事しな「ごとん。」いのねえお兄様何だか赤いわお兄様ねえどうしたの顔が見えないわねえお兄様何でねえどうし「どん、」


「ごとん。」


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そもそもが気に食わねえ。
先代座長の息子だからって、何であんな若いのに従わなけりゃならねえ。
あの、いちいち人を馬鹿にしたような偉そうな態度。
おれはあいつが大嫌いだ。


このサーカスの今の面子と言ったら、火吹き男のおれに三つ子のピエロ、高飛車な空中ブランコ乗り、調教師の小娘、それに先代座長の息子二人。
いっそ大きなサーカスに拾ってもらった方がよっぽどいい。
ピエロ共とブランコ乗りは大賛成。
調教師は連れてってやってもいいが、問題は先代座長の息子…特に現座長の兄の方だ。
何とかして上手いこと始末できればいいんだが…


そうだ。
あいつはやたらと見目を気にしてやがる。
客の前で二目と見られない姿にしてやれば、きっと立ち直れないはず。
そうだ、それがいい。
そうしてやろう。
あのすました顔をめちゃくちゃにしてやろう。


*******


街の外れで、今日も小さなサーカスの幕が上がる。


決して大きくはないテントだが、今日も満員御礼。


三つ子のピエロは舞台端で観客に愛嬌を振りまき、ブランコ乗りは細い綱の上から観客席に花を投げる。
腹話術師の少年は相棒のウサギを操りながら、観客に菓子を売り歩く。
調教師の娘が舞台袖から不安げに見つめる中、舞台中央で座長が大仰なお辞儀をひとつ。


「さて、続いてご覧に入れますは我がサーカス自慢の曲馬団!」


慌てて調教師の娘が舞台上に上がり、手にした鞭で地面を叩く。
舞台袖から十数頭の馬達が走り出て、円形に行儀良く並ぶ。
調教師の娘は目を閉じて、大きく深呼吸をして、観客席に向かって笑顔を作った。


「調教師は彼女、イゾルダがつとめます。どうぞご観覧あ…」


完璧な化粧、完璧な口上、今日も公演は大成功。
そのはずだった。


「覚悟しやがれ!!」


突然響いた罵声に観客がざわつく。
座長が声の方向に顔を向けると、舞台袖に樽を手にした火吹き男が立っていた。
彼は舞台袖から走ってくるなり、樽の中身を座長に向かってぶちまけた。


「お客様の前だぞ。何のつもりかね」


かわし切れず、中の液体が座長の足と肩の辺りを濡らした。
鼻をつく不快な臭い。
そして、火吹き男が大きく、息を吸い込む。


立ち込める灯油の臭いと、頬を膨らます予備動作を認識した瞬間―彼は躊躇いなく仕込みステッキの刃を作動させ、火吹き男の喉目掛けて斜めに斬り上げた。
それは恐らく、彼が実行でき得る中では最善の策だったが、しかしそれでも遅すぎた。


ほぼ同時に男の口から炎が吐き出され、切り裂かれた気道からも赤い飛沫と炎が噴き上がった。
火吹き男は火炎を撒き散らしながら倒れ、喉と口から溢れた炎が天幕に燃え移った。
床に撒かれた灯油はあっという間に燃え上がり、座長は炎に包まれて膝から崩れ落ちた。
曲馬団の馬達は炎に怯えて滅茶苦茶に走り回り、調教師の娘は踏み潰された。
三つ子のピエロは逃げ惑い、ブランコ乗りは渡っていた綱が焼き切れて観客席に転落した。
腹話術師の少年は兄の元へ走ったが、その頭上に天幕を支える細い骨の一つが焼け崩れながら落ちてきた。
見る間に炎は天幕を這い上がり、燃えた天幕の切れ端が火の粉と共に観客席に降り注いだ。
観客達は出口に殺到し、恐慌状態に陥った馬達が悲鳴を上げた。



*******



炎と煙と断末魔が見世物テントを覆い尽くした頃、瀕死の座長の前に「それ」は現れた。 


時が止まったようだった。
熱さも痛みも消えてはいなかったが、意識は明瞭だった。
顔を上げると目の前に、黒い靄があった。
薄く半透明なそれはただ、ゆらゆらと霧のように漂っていた。
そして、黒い靄の向こうの光景が透けて見えた。
彼の目はその惨状を認識した。
認識してしまった。


「…イゾルダ」 


調教師の娘は馬に踏みつけられ、引きずられてばらばらに千切れていた。 
美しかった金髪。気弱な彼女の唯一の自慢だった、長い白金色の髪は血と煤ですっかり汚れてしまった。 


「…アンリ」 


腹話術師だった弟は落ちてきた天幕の骨が頭を突き抜けて地面に刺さり、ずるずると座り込んで虚ろな目を見開いたままだった。 
ウサギのぬいぐるみの手は、右手で掴んだまま。


最初は5人だった。 
父と母と。 
僕とアンリと。 
そして、イゾルダ。 
このサーカスは5人で始まった。 


父と母は、流行り病で死んでしまった。 
アンリとイゾルダも、死んでしまった。 
最愛の家族はもういない。 


そして僕も恐らく、此処で死ぬだろう。 
僕達のサーカスは此処で消える。 
父が創り、母が愛した、ささやかなサーカス。 


この炎が喰い尽くしてしまうだろう。 
焼けて、なくなってしまうだろう。 


「…父さん」 


父は事切れる瞬間、僕の手を強く握り締めた。 
父は僕にこのサーカスの未来を、運命を、託したのだ。 
それなのに、僕は。 


「僕は、あなたとの約束を果たせなかったのか」 


父は失望するだろうか。 
母は悲しい目をするだろうか。 


もう手遅れだろうか。 
もう、運命は決してしまったのだろうか。 
もう…何も出来ないのだろうか。 


視界が暗くなる。 
体から力が抜けていく。 
熱さも痛みも、まるで自分のものではないようだ。


「何をしてもいい。何を払ってもいい。僕は」


「僕はまだ…諦めない。僕は」


絞り出した声は掠れていた。 
焼けた喉からひゅうひゅうと音が漏れる。 
土を握り締めた指は皮が捲れ、焼け爛れた肉にギリギリと砂が食い込む、激痛。 
酷い臭いだ。これが自分の焼ける臭いだというのだから、全く厭になる。
顔もどんな有り様になっていることか。今鏡を見たら卒倒するかもしれない、が、そんなことは問題ではない。 
意識が遠退くのを繋ぎ止めるように、手繰り寄せるように、叫ぶ。 


「このサーカスを守ると誓った!何があろうと、諦めるわけにはいかない!」


「僕が座長である限り、このサーカスは在り続けなければならない!!」 


裂けるような痛みの割に、声はほとんど聞こえなかった。
しかし、応えるものがあった。 


《その願いは力になるだろう》


この地獄のような光景には異様な程そぐわない、鈴の鳴るような少女の声が。 


《君が願うなら》


《君が望むなら》


《そして君に覚悟があるのなら》


《私には力を貸す用意がある》


黒い靄が集まり、密度を増していく。 
ぽたぽたと雫を落とす球体を形作ったそれから、何か四角いものの角がぬるりと現れて、どさりと落ちた。 


本、だった。 
黒っぽい革の表紙に刻まれた奇妙な紋章。 


《では問おう》


可憐な声と共に、紋章が赤く輝き出す。 


《叶えたい望みがあるのなら、取り戻したいものがあるのなら、その本を手に取るがいい」 


《それが君と私の絆になる》


《それが君と私を縛る契約となる》


藁にも縋る、という言葉は相応しくない。 
何故だかはわからない。しかし、確信があった。 
この本を手にすれば、僕の願いは果たされるだろう。 
そして同時に、


永劫に逃れられない何かに捕らわれるだろう。 


「…構わない」 


腕は、手は、焼けた皮膚が強張り、うまく動かない。 
必死に伸ばした指が表紙に触れた瞬間、頁の間から黒い靄が溢れ出した。 
靄の中から黒い手のようなものが無数に伸びてきて、腕を、脚を、首を、掴んだ。 
視界が真っ黒に塗り潰され、そこで、意識は、途切れた。 


《いい答えだ》


心臓を冷たい手で掴まれたようなおぞましい感覚。 
それが最後だった。 



*******



きっと二人は僕を赦さないだろう。 
それ故、僕は隠さなければならない。 
真実を知られてはならない。 
それはきっと二人に不幸をもたらすだろう。 
知られてはならない。 
飲み込まなければならない。 
それは座長たる僕の義務だ。 


この先彼等に憎まれることがあったとしても。


僕は、二人を、愛している。

舞台の上には男が一人。
焼け焦げた肉の臭いを撒き散らす熱風が、蜃気楼のようにその姿を揺らす。
もう間に合わない。
もう、全てが手遅れだ。
彼の愛したもの。守ると誓った全てのもの。そして彼自身も。
焼けてしまう。
焼けて、尽きて、なくなってしまう。
けれど、彼は『それ』を喚んだ。
喚ぶことが、できた。できてしまった。
血と煤に塗れたその手を、掴むものがあった。
そしてそれが始まりだった。
そしてそれが、


母が死んで、後を追うように父も死んだ。
僕達兄弟に遺されたのは、この小さなサーカスひとつ。
父が創り、母が愛した、ささやかなサーカス。
僕達が生まれてからずっと、共にあったかけがえのない場所。
だから僕は、両親の墓標に誓った。
僕が必ず、このサーカスを守ると。



英雄クロニクル第8期。
別名女子力強化期間。
元々7期ハロウィンのネタだったんですが力を入れ過ぎて間に合わなかったのでサルベージ

【メイン】

Name:A.イェーガー(Andras=Jager)
Class:鴉頭の暗殺者
Sex:♀
Note:
ハインリヒのボディーガードをしている暗殺者。
真面目で仕事一筋、軍人のような口調で話す。
体型にコンプレックスを持っているらしく、「平らであること」を連想させるような単語にやたら過剰反応する。
お嬢様育ちでぼけっとしているハインリヒと、何を考えているのかわからない(恐らく何も考えてはいない)ヴァルターに手を焼く苦労人。

*自由欄


【サブ1】

Name:ハインリヒ(Heinrich von Schwarzensarg)
Class:渇望する令嬢
Sex:♀
Note:
婚約者の帰りを待つ貴族令嬢。
遺産相続を巡り親族に疎まれ弟ともども毒殺されたが、婚約者への未練で吸血鬼として復活。
親族は遺産争いで同士討ちの末全滅したため屋敷と遺産は彼女のものとなり、今日も元気に婚約者を待ち続けている。
吸血鬼であるため日光が苦手だが、箱入り娘として育ったため外の世界や街に興味津々。
お目付け役であるイェーガーや使い魔の目を盗んでは日傘を差して散策している。
そしてよく連れ戻される。

*自由欄


【サブ2】

Name:ヴァルター(Walter)
Class:暴走ゾンビ女医
Sex:♀
Note:
不慮の事故で死亡したのち、どこぞの悪魔によって動く死体として蘇生した女医。
元の性格がどうだったのか知る由もないが、現在は常時テンションが高く、なんだかうるさい。
生前の記憶は「自分が医者であったこと」のみで、それが彼女の行動の指針である。
「医師であること」をやたら主張してくるが手に持っている『手術道具』を見る限り治療行為と呼べるものは全く期待できない。
喋り方も忘れてしまったため、ハインリヒの口調を真似している模様。

*自由欄


*カットイン

ホラー

【輸送隊メイン】
7期のマリス続投。

【輸送隊サブ1
準備中。

【輸送隊サブ2】

Name:ルートヴィッヒ(Ludwig von Schwarzensarg)
Class:偏食家
Sex:♂
Note:
マリスに付き従う吸血鬼。ロリコン。
親族の陰謀により毒殺された辺境貴族の次男坊。ハインリヒの弟。
少女の血しか吸わないため、慢性的に空腹で常に不機嫌(自業自得)だが、少女の前では好青年を装っている。
見た目が少女ないし幼女で性別が女なら守備範囲内。言い訳できないレベルのロリコンである。
姉のことは心配だが、あまり素直に接することができないようだ。

【ハロウィン】
おやすみ(´・ω・`)
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プロフィール
HN:
coqua(こか)
性別:
非公開
自己紹介:
爬虫類と骨とハイエナが好きです。
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